おひさしぶりです。久保田ゼミ5期生 広報部です。

今回は、4年生の有志グループが、卒業論文と平行して取り組んだ「マーケター名鑑」という活動をご紹介します。11人のマーケターの方々に御協力いただきましたが、HPでは千葉県流山市役所マーケティング課にお勤めの、河尻様とのインタビュー内容をお見せしたいと思います。

・「マーケター名鑑とは」

「マーケター名鑑」とは、現在日本で活躍されているマーケターの方からのお話を伺い、野球選手名鑑のように冊子にまとめるというものです。ゼミ生が直接オフィスや指定の場所に伺い、インタビュー形式でお話を伺いました。取材先は、千葉県流山市役所マーケティング課を始め、食品メーカーや自動車メーカー、小売、アパレルメーカーなど、様々な業界で活躍されているマーケターの方々です。

では、数多くの取材記事の中から、千葉県流山市役所で行政マーケティングに携わっている、マーケティング課の河尻様のお話を、ご紹介します。

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千葉県流山市役所 河尻 和佳子

 NAGAREYAMA CITY OFFICE WAKAKO KAWAJIRI

経歴

東京電力で14年間、地域密着型の営業やマーケティング業務に従事。その後、流山市役所のマーケティング課で、任期職員として、ブランディングや広報活動を担当している。

・マーケティングに携わったきっかけ

「住んでいる街を元気にしたい。」

 新居を千葉県で探している時、流山市はどうかと夫から提案されました。しかし私の流山市に対する印象は、「何もない」でした。渋りながらも、夫に言われて流山市に足を運んでみると、印象とは裏腹に、可能性のある街であることに気付いたんです。実際は良い街なのに、知られていないことがもったいないとそのとき感じました。結局流山市に住むことを決め、新居を建てました。ちょうどその頃、新聞を読んでいると、流山市がマーケティング課で働く職員を公募していることを知りました。よく考えてみると、共働きで家庭を持つ自分は流山市のターゲットであり、私にしかできないのではないかと思いました。また、公募している流山市の本気度に惹かれ、エントリーしました。無事合格し、晴れてマーケティング課で流山市のマーケティングに関わることになりました。

・今までの失敗体験

「流山市の強みを誤解していた」

流山市に住んでみて、いざ何をウリにPRを行おうかと考えると、すぐに手詰まりになりました。というのは、住んでみると流山市にしかないような特徴がない、ということに気づいてしまったためです。自然が豊かな場所は都心にもありますし、都心に近くて子育て施策をやっているのは、例えばさいたま市など首都圏近郊の街でも、同じ条件なわけです。

そこで、市内に住む100人にインタビューを行い、流山市の良いところを聞きました。すると、自分が弱みだと考えていた「そろっていないモノやコトがある」という事が、実は強みであることがわかり、目から鱗が落ちました。そして、「そろっていないモノやコトがある」というのは、言い換えれば「将来に伸びしろ」があるということなのだと気付きました。

「流山市内のマーケティングがおろそかに」

始めは、対外的なマーケティングに力を入れていました。また、流山市の認知度やイメージが高まったこともあり、人口は着実に増えていきました。一方で、市内のマーケティングがおろそかになっていることに気づきました。転入前に高まった期待値と、転入後にギャップが少しでもあると、街への愛着度が高まらないことがわかってきました。さらに、そういった評価がママ友などを介してクチコミとして広がっていく現状もわかりました。

そこで、逆に住民たちの評価を高めれば(流山市のファンになってもらえば)、ママ友や知り合いなどを通じて、自発的に発信してもらえるのではないかと考えました。つまり、街への愛着度を高め、住む人の魅力を発信することによって、対外マーケティングも同時に進められるのではないかと考えました。こうして6年目から現在に至るまで、市内外両方に力をいれています。

・今までの成功体験

「流山市内のマーケティング-そのママ夜会、そのママ夢Party-」

先程の続きで、ではどうしたら流山市のファンになってもらえて、それを自発的に発信してもらえるようになるのかを考えた結果、街が住民にとって自分事でなければならない、という結論に至りました。

そこでまず、市に住む子育て中のママにインタビューを行い、どんなことに不自由を感じているかを調査しました。すると、「(子育ても楽しいのだけれど)自分らしくいられない。」という声が集まりました。そこで私たちは、そんなママたちがつながり、話しができるような場として「そのママ夜会」を企画しました。結果として、そのママ夜会は盛況に終わり、その後自発的に会合を開くママたちまで現れました。

私たちは続くイベントとして、「そのママ夢Party」を企画しました。自分らしくありたいと願うママたちが、自分のアイデアをプレゼンし、それに賛同する企業や住民が協力して、アイデアを実現させようというイベントです。実際に13組の応募があり、その半数の夢が実現しました。

例えば、「子育てをするようになってから、大好きだった音楽フェスイベントに行けなくなってしまったママ」が、流山市で親子連れでも参加できる音楽フェスを開催するというアイデアを実現させました。街の中で自分のやりたいことができると、流山市のファンを越えて、街が自分のアイデンティティになっていくんですよね。そうすると、自分の話=流山市の話になるので、そうした人が増えれば着実に拡散されていくことになります。

「細かなセグメンテーションを行ったこと」

マーケティングをするにあたり、まずターゲットを決めました。ただし、ターゲティングは流山市の強みをしっかりと理解していなければ、それがいったい誰に響くのかという事を推測することはできません。

強みを理解するまでには、先に述べたような失敗もありました。結論としては、首都圏在住の30代~40代前半の共働き子育て世代、及びその中でも街の発展を楽しんでいけるようなベンチャー気質の人を対象とし、そこに向けて「好きだから長く住みたい」と思えるプロモーションをしようと決めました

・現在と昔でのマーケティング手法、あるいは消費者の動向の変化

「多様性」

皆が良いから良いという考え方から、自分で選ぶ、共感したモノに時間をかける人が多いです。だからこそ、セグメントをきちんとしていかないと、対応できないと考えています。子育てをしている女性と言っても、共働きなのか、子供は何人いるのかなど、ペルソナを設定せずにマーケティングをするのは危険だと感じています。

・マーケティングを学校で学ぶことは、実務に役立つと思うか

「役には立つが、後でも学べる」

私は文学部に所属していたので、学生時代にマーケティングを勉強していません。この立場からいうと、もちろん役に立ちますが社会人になってからでも学べます。でも学生時代から学んでいれば、他の人よりも短い期間で高く飛ぶことができると思います。

「マーケティングを実践するなら合コン」

大学1年生の時は、大量の雑誌を読み、ファッションやメイクなどを研究して、見た目は一定レベルを超えるよう頑張りました。でもなぜかモテないんです。自分よりも可愛くない子に彼氏ができているのに、どうして!?って思いましたね(笑)。

そこで解決策として、まず自分の強みを考えました。そしてその強みが刺さるようなターゲット像を決めて、合コンでも狙うようにしました。そしたらもう、勝率が爆上がりで…!しかも、勝率が上がったことで、友達界隈で「河尻はモテるらしい」という噂が立ち始めるんですよ。これによって、「河尻=モテる」というブランドが形成されて、さらにモテるという流れが生まれました。

強み分析→ターゲティング→成功→クチコミ→ブランド形成って、これまさにマーケティングをしてますよね。例として合コンを挙げましたが、なんでもいいので学生時代にマーケティングを実践してみるといいと思います。

・市民の理解と協力を得るために、流山市が行った取り組みなどはあるか

「情報をオープンにする」

課題も含めて、現在の流山をできるだけ公開することを試みました。そうすると、先にも言ったように、課題に対してファンである流山市民が、解決のために動いてくれる場合もあります。また、情報を伝える上で、事実のみを伝えるということも意識しています。

・都心に掲示されている流山市の広告は、どの程度効果があったか

「測ることが難しい」

広告を見ただけで、消費者が家のような大きな買い物をすることはないですよね。広告は、あくまで転入を決めるひとつのきっかけに過ぎないと考えています。認知度を高める効果は測定できても、最終ミッションの定住まで測るのは難しいですが、現在試行錯誤中です。

・マーケティング戦略の目的として、人口の増加以外に考えていることはあるか

「Enjoy Difference」

例えば、流山市には流鉄流山線というローカル線があります。私たちから見たら街を走る日常の電車ですが、鉄道好きな人にその魅力を語ってもらえば、流山の魅力の1つとして市外にアピールできるかもしれませんよね。しかも個人の得意分野を市内外にアピールできることは、その人の街への愛着度を増す要因になり得ます。

このように、いろいろなスキル、知識、趣味趣向をシェアできるような、場や仕掛けをつくりたいと考えています。

・愛用のツール 

「ONLINE会議室 ZOOM」、「大きな紙とペン」、「自転車」

(自転車に関して)アイデア出しは、同じことを何度も何度も繰り返すので筋トレと同じだと思っています。でも同じことばかりしていると煮詰まってくるので、そういうときに私は自転車で思いっきり走ります。そうするとアイデアが下りてくるんです。

・尊敬するマーケター

「コミュニティデザイナー 山崎亮(ヤマザキ・リョウ)さん」

正確には“尊敬”している人はいないです。ある人のことをすごいなって思ったら、神のようにあがめるのではなく、この人をいつか追い抜いてやる!というマインドでいます。なので、山崎さんはいつか追い抜きたい人といった方が正しいですね。

・愛読書

「漫画や雑誌」

マーケターとして、今何が流行っているかを知るために、漫画も雑誌もたくさん読みます。今はやっているというわけではないですが、ガラスの仮面もすごく良いですよ。

・河尻さんにとって、マーケティングとは?

「生活の中にあるもの」

合コンの話もそうですが、他人に行動を起こさせるためにはマーケティングが必要です。自分の子供に何か頼まれた時にも、もっとうまくマーケティングして頼まないと私は動かないぞって思います(笑)。

・担当編集者からひと言

「分析、企画能力がすごい」の一言につきます。消費財では、なかなか「モノ=自分のアイデンティティ」とはなりづらいと思います。また、耐久財の場合においても、自分のアイデンティティと結び付いている人は少ないと思います。一方で、子育て家族にとっての「移住、家」といったものは、そもそも自分のアイデンティティになりやすい、という特徴があるのではないかと思います。

分析に分析をかさね、市の強み、ターゲティング、商材の特徴が最大限うまくかみ合うようになされた施策の数々だと感じました。